CRPS
交通事故で骨折、打撲、捻挫した箇所で、ほんのわずかな刺激で激しい痛みが生じることがあります。このような場合にはCRPSが問題となります。
CRPSはComplex regional pain syndromeの頭文字をとった略称で複合性局所疼痛症候群と訳されます。
1994年の国際疼痛学会ではCRPSを、疼痛の原因に基づいて分類し、異常な交感神経の反射によるものをCRPSType1としてRSD(反射性交感神経性ジストロフィー)と呼び、外傷性の神経損傷によるものをCRPSType2としてカウザルギーと呼びました。
その後2005年の国際疼痛学会では、CRPSをType1としてのRSDとType2としてのカウザルギーに分けずに、一定の要件のもとで診断する基準を定めました。また、国内においてもCRPS厚労省研究班が判定指標を作成しました。
このように、臨床医学において現在では疼痛の原因について神経損傷の有無で分けずに臨床症状をもとに判断していますが、自賠責保険の後遺障害等級認定では現在も、RSDとカウザルギーに分類され、神経損傷の認められないRSDについては、①関節拘縮、②骨の萎縮、③皮膚の変化という慢性期の主要症状が健側と比較して明らかに認められることが必要とされています。
先行する事象に不釣り合いな持続性疼痛
以下の4項目中3項目に少なくとも1つの症状があること(研究用基準は4項目全てに少なくとも1つの症状を要求)
・知覚過敏の訴え、アロディニアの訴え
・皮膚温左右差の訴え、皮膚色の変化の訴え、皮膚色の左右差の訴え
・浮腫の訴え、発汗変化の訴え、発汗左右差の訴え
・可動域制限の訴え、運動障害(筋力減少、振戦、ジストニア)の訴え、萎縮 性変化(毛、爪、皮 膚)の訴え
評価時に以下の2つ以上の項目に少なくとも1つの徴候があること
・疼痛過敏の証明、(軽い接触、圧覚、関節運動による)アロディニアの証明
・皮膚温左右差の証明、皮膚色の変化の証明、皮膚色の左右差の証明
・浮腫の証明、発汗変化の証明、発汗左右差の証明
・可動域制限の証明、運動障害(筋力減少、振戦、ジストニア)の証明、萎縮性変化(毛、爪、皮膚)の証明
上記症状、徴候をよりよく説明できるその他の疾患が除外できること
A病期のいずれかの時期に、以下の自覚症状のうち2項目以上該当すること(臨床用指標、研究用指標は3項目以上該当することが必要)、ただしそれぞれの項目内のいずれかの症状を満たせばよい。
1皮膚、毛、爪のうちいずれかに萎縮性変化
2関節可動域制限
3持続性ないしは不釣り合いな痛み、しびれたような針で刺すような痛み(患者が自発的に述べる)、知覚過敏
4発汗の亢進ないし低下
5浮腫
B診察時において、以下の他覚所見の項目を2項目以上該当すること(臨床用指標、研究用指標は3項目以上該当することが必要)
1皮膚、毛、爪のうちいずれかに萎縮性変化
2関節可動域制限
3アロディニア(触刺激ないし熱刺激による)ないしは疼痛過敏
4発汗の亢進ないし低下
5浮腫
CRPSが神経損傷が認められるカウザルギーや①関節拘縮、②骨の萎縮、③皮膚の変化という慢性期の主要症状が健側と比較して明らかに認められることという要件を満たしてRSDと認められた場合には、疼痛の程度に応じて7級、9級、12級に認定されます。
「神経系統の機能又は精神に障害を残し,軽易な労務以外の労務に服することができないもの」(7級4号)
「神経系統の機能又は精神に障害を残し,服することができる労務が相当な程度に制限されるもの」(9級10号)
「局部に頑固な神経症状を残すもの」(12級13号)
このように医学の臨床の現場で用いられる基準と自賠責保険の後遺障害認定の基準が異なるため、後遺障害診断書の傷病名にCRPSという記載があっても、自賠責保険の要件を満たさないとして「局部に神経症状を残すもの」(14級9号)という認定にとどまることがよくあります。特に臨床の現場では問題とされていない骨の萎縮の要件を欠くとしてRSDと認められないということはよくあります。
このような場合には、CRPSとして12級以上の後遺障害にあたるものとして示談で解決することは難しく、訴訟において、被害者の方の疼痛が14級の神経症状にとどまるものではない、ということを立証していく必要があります。その際には2005年国際疼痛学会の診断基準や厚労省CRPS判定指標に症状を丁寧に当てはめていくとともに、浮腫や皮膚温変化といった客観的な所見があることが重要になってきます。